アールワン日誌 Blog

はたして、定期健康診断は誰のためにあるのでしょうか?

2014/06/16

はたして、定期健康診断は誰のためにあるのでしょうか? - 社会保険労務士法人アールワン | 東京都千代田区

こんにちは。社会保険労務士法人アールワンの笹沼(ささぬま)です。(入社3年目となりました!)

今回のテーマは「定期健康診断の再検査」について。会社側にとってはちょっと怖いお話かもしれません。そして、ここ最近の運動不足が気になっている私も、個人的に無視できないトピックです・・・。

まず前提として、会社は従業員に年1回の健康診断を受けさせる義務があることをご存知でしたでしょうか?(労働安全衛生法66条

健診を受けさせる時期は会社の決めによりますが、毎年4月、5月に定期健康診断を実施する会社が多いようです。従業員にとってはとても大切な健康診断なのですが、そこで「要再検査」と診断された従業員が、実際には再検査までは受診しに行かないというケースも多く見受けられます。

しかし、実はそこに会社側にとっての大きなリスクが潜んでいることはあまり知られていないようです。(実際に会社側が罪に問われたケースも!)

そこで今回は、定期検診に関連する法令や事例を確認しながら、「要再検査」となった従業員への適切な対応についても考えていきましょう。

 

企業の経営者・担当者さま

「もっと詳しく知りたい」「今この件で困っている」そのようなときには、こちらよりご連絡ください。

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定期健康診断の再検査義務は?

労働安全衛生法では、会社は従業員を対象とする健康診断の実施義務を定めています。また同じように、従業員に対しても会社が行う健康診断を受ける義務が定められております。

しかし、健康診断の結果により、再検査や精密検査が必要とされた場合に、会社の再検査・精密検査の実施義務および従業員の受診義務は定められておりません。そのため、再検査・精密検査の結果が通知された場合、受診するかどうかは従業員の判断に委ねることになります。

 

それでも会社側に賠償責任が発生するケースも

上記のように、会社は二次健康診断(再検査)の実施義務は無いということです。それにも関わらず、再検査・精密検査の必要がある従業員に対し、会社が適切な処置を講じなかったとして安全配慮義務違反を問われた事例も過去に存在します。

<システムコンサルタント脳出血死事件控訴審判決>
システムコンサルタント職の男性が自宅で脳幹部出血により死亡した。定期健康診断の結果で高血圧症が悪化していたことを認識していたにも関わらず、事業者は脳出血などの致命的な合併症に至る可能性のある過重な業務に就かせない、あるいは業務を軽減するなどの安全配慮義務を怠った。その結果、高血圧症を悪化させ、高血圧性脳出血の発症に至ったと認定し、安全配慮義務違反による損害賠償責任を免れないと判断した。(東京高裁H11.7)

会社が精密検査を受診するよう従業員に伝えていたというだけでは、「従業員の健康管理を怠った」とみなされ会社側の損害賠償責任が認められたケースです。ただし、この判例の場合は従業員も精密検査を受けず、自らの健康について配慮していなかったことから、賠償額は減額(50%)されています。

 

会社側の適切な対応とは

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それでは、会社が安全配慮義務違反を問われないためにはどうすればよいのでしょうか?

それは、健康診断の結果、再検査や精密検査の診断が出された従業員には、必ず再検査を受診させるということです。そして、本人にそれを促すだけではなく、会社の就業規則にも再検査の受診義務について定めておく必要があります。

▽就業規則の記載例▽
従業員は定期健康診断の結果に異常の所見がある場合には、会社の指定する医師による再検査を受診し、その結果を会社に報告しなければならない。
従業員が、正当な理由なく再検査を受診しない場合、又は、その結果を報告しない場合、会社は従業員の労務提供の受領を拒否する場合がある。

このような記載の追加により、リスクを軽減することが可能と考えられます。「時間が無い」「業務が忙しい」などを理由にして再検査を拒否する従業員もいるかと思われますが、適切な労務管理や業務の配置をしていくことで、会社側のリスク回避を図ることができます。

それでも、会社と従業員の「双方」を守るために何よりも優先すべきは、やはり再検査の受診を徹底することに違いありません。

 

そもそも、なぜ健康診断を会社が実施する必要があるのでしょうか。

会社のために働く従業員が、ベストなパフォーマンスをするには「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉があるように、健康状態が良好でなければなりません。

健康診断は「法律で定められているから」「毎年のことだから」と考えがちですが、「従業員が良好な健康状態でいること=会社の発展につながる」と考えて、会社も従業員もより前向きに捉えてみてはいかがでしょうか。

まとめ
今回のトピックについて、会社が取り組むべきこと

年1回の健康診断の実施

「再検査」が必要な従業員に必ず受診してもらう

就業規則への記載追加によるリスク軽減

 

企業の経営者・担当者さま

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笹沼 瞬(ささぬましゅん)のイメージ

執筆者

社会保険労務士法人アールワン 笹沼 瞬(ささぬましゅん)
生命保険会社の営業職から転じて、入社12年目。担当クライアントの多くが社員100名以上の規模の会社様ということもあり、法改正の情報は特に早めにキャッチアップすることを心がけています。得意な分野の助成金・補助金申請はずいぶんと経験値が増えてきました。趣味でテニス(週1回目標!)をやっていますので、テニスやられる方はぜひお声かけください。