アールワン日誌 Blog

社員がマイカー通勤中に事故を起こしたら、会社の責任はどうなるのでしょう?

2016/04/30

社員がマイカー通勤中に事故を起こしたら、会社の責任はどうなるのでしょう? - 社会保険労務士法人アールワン | 東京都千代田区

こんにちは。社会保険労務士法人アールワンの笹沼(ささぬま)です。最近は、豆腐や納豆、味噌味の食べ物を食することが多く、先日も荒川区の味噌屋さんで白味噌と八丁味噌を衝動買いしてきました。これからは「好きな食べ物は大豆です」と宣言していきたいと思ってます!

さて、先日、お客様との打ち合わせの中でこんなご質問がありました。

「うちの会社は車での通勤を禁止しているけど、先日、うちの社員が会社の近くのパーキングに車を止めているのを見かけたんですよ。確認したところ、『たまに車で通勤している』と言っていました。その場では注意したんですが、その社員が今後もしも事故を起こしたら、会社が責任を問われるのでしょうか?」

無断で車通勤している社員が、交通事故を起こしてしまうことをご心配されているようでした。さて、その場合の会社責任はどうなるのでしょうか?

 

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「使用者責任」と「運行供用者責任」

社員がマイカー通勤の途上において交通事故(加害事故)を起こしたとき、そこで会社の責任が問われるとしたら「使用者責任(民法715条)」と「運行供用者責任(自動車損害賠償保険法3条)」が関係してきます。

 

【使用者責任(民法715条)】
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

→「使用者責任」のポイントは「業務上で車を使用していた場合は、会社が相当の注意をしていた場合を除き、会社が事故の責任を負う」ということです。

 

【運行供用者責任(自動車損害賠償保険法3条)】
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

→「運行供用者責任」のポイントは「運転の目的が業務外」であったら本人(運転者)が、「業務上」であれば会社が、それぞれ責任を負うということです。

 

つまり、マイカーを業務ではなく、通勤のみに使用していた場合の交通事故は、原則として会社に「使用者責任」や「運行供用者責任」は認められていません。

 

会社の責任が認められなかった判例

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これについては、次のような判例もあります。

従業員がマイカー通勤の途上で事故を起こした。会社は駐車場を第三者から借りて使用させていたが、駐車料金は利用者に分担して負担させていた。会社は日頃、そのマイカーを社用に利用したこともなく、燃料費や維持費を支給したこともなかった。そのため、そのマイカーに対して「運行支配や運行利益があったとはいえない」として、会社の運行供用者責任を認めなかった。(鹿児島地裁 S53.10.26)

また他には、会社が自動車通勤を認めていなかったこと、電車通勤に見合う通勤手当を支給していたことを理由として、会社に対する企業責任を認めなかった判例もあります(神戸地裁 H8.9.19)。

 

会社の責任が認められた判例

ただし、「マイカーによる通勤途上の事故」でも使用者責任や運行供用者責任が認められたケースもありますので、注意が必要です。

従業員がマイカー通勤途上で起こした事故について、会社はマイカー通勤を認めており、さらにマイカー通勤手当を支給していた。そのため、「この会社の通勤は業務に密接に関連する」と判断され、会社側に使用者責任を認めた。(福岡地裁 H10.8.5)

この場合は、マイカー通勤手当の支給が、会社による積極的なマイカー利用の容認とみなされ「(通勤が)業務に密接に関連する」といった判断につながったようです。また、他にも「駐車場代の補助」や「会社の備品を、マイカーを利用して家に持ち帰った」などの場合も、「業務に密接に関連する」と判断されています。

 

以上の2つの判例から、マイカー通勤途上の事故に対して、それが「業務」であったか、もしくは「業務に密接に関連する」と判断された場合には、企業責任を問われる可能性があるということがわかります。

 

会社があらかじめ対策しておくべきことは

まず会社は、原則としてマイカー通勤は禁止とすべきです。そして、無断でマイカー通勤をしている社員がいた場合に備え、懲戒の対象とする就業規則を備える必要があります。

また、無断でマイカー通勤している社員を見かけても、それを黙認してしまえば、会社がマイカー通勤を認めていると判断されてしまいます。そのため、今回の冒頭のお客様のように、必ず指導・注意をするようにしてください。

もしも、(居住地の都合などにより)従業員がマイカー通勤をしなければならないという場合には、必ず自動車保険に加入していることを確認してください。加入している自動車保険で損害を補填することができれば、会社が責任を問われることはありません。補償が不足していないか、契約期間が切れていないかなども、必ず確認してください。

 

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笹沼 瞬(ささぬましゅん)のイメージ

執筆者

社会保険労務士法人アールワン 笹沼 瞬(ささぬましゅん)
生命保険会社の営業職から転じて、入社12年目。担当クライアントの多くが社員100名以上の規模の会社様ということもあり、法改正の情報は特に早めにキャッチアップすることを心がけています。得意な分野の助成金・補助金申請はずいぶんと経験値が増えてきました。趣味でテニス(週1回目標!)をやっていますので、テニスやられる方はぜひお声かけください。