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会社の設備を破損した従業員に、損害賠償を請求できるのでしょうか?  

2016/05/10

会社の設備を破損した従業員に、損害賠償を請求できるのでしょうか?    - 社会保険労務士法人アールワン | 東京都千代田区

こんにちは。千代田区の社会保険労務士法人アールワンの西嶋(にしじま)です。最近の週末は、自宅近くの江戸川の土手でサイクリングを楽しんでいます!

さて、今回のトピックは「従業員への損害賠償請求」です。

従業員が仕事中に、会社の設備を破損したり、それによって業務上の損害が出てしまったとします。そのとき、会社は従業員にその損害を全額負担させることができるでしょうか?

 

企業の経営者・担当者さま

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会社は従業員に、損害賠償請求ができます。

まず、会社が従業員に対して損害賠償請求をすることについては、法律上の妨げはありません。

しかし、会社は、従業員から労務の提供を受けて、それにより収益を得ています。そのため、損害が従業員の「故意」でない限りは全額を請求することはできません。故意でない場合には、従業員は「最大でも25%程度の負担」が妥当である、という次のような判例があります。

 

「25%の負担が妥当」とされた判例

会社は石油等の輸送、販売を営んでおり、タンクローリー等を20台近く保有していた。

1. 会社は経費削減のため、これらの車両について対物賠償責任保険と車両保険には未加入だった
2. 従業員は、タンクローリーの運転中、前方不注意により前の車に追突して双方の車両を破損した
3. 会社は、従業員にこれらの修理代の『全額』を請求した。

→ 裁判所は、請求額の25%を認めた。 茨城石炭商事事件(損害賠償請求)昭和51年7月8日

 

この裁判では、「会社側が全額を請求するのは、信義則に反しており、最大でも25%程度の負担が妥当である」という判決が出ています。

この判決のポイントは次のようになっています。

・従業員は故意に事故を発生させたわけではない。

・会社は労務の提供によって利益を上げており、事故が発生した場合でも危険を負担する義務がある。

・労働契約の信義則上、損害額を全て労働者に負担させるのは酷である。

・会社が損害保険に加入していれば、損害額がここまで多額にならなかった。

 

給与からの天引きは、原則認められません。

また、ここで発生した損害額を、従業員の給与から天引きすることはできるのでしょうか?

労働基準法には、「賃金全額支払い」の原則があります。つまり、税金や社会保険料、労使協定により天引きが認められたもの以外に、給与から天引きをすることはできません。

そのため、損害賠償を請求するときは、給与を一度全額支払ったうえで、賠償額の根拠を示して、従業員に請求する必要があります。

ただし、従業員の自由な意思に基づき、会社と従業員とで合意があれば、天引きすることは可能とされています。(判例もあります)

 

先ほどの判例を見てもわかるとおり、会社が従業員に損害賠償を請求するうえでは、そもそも「会社としての配慮義務」(※)を果たしていることや、「労働者との雇用契約上の関係等」(労働条件や勤務態度、業務内容など)の兼ね合いが求められます。

※配慮義務 ・・・ 損害が発生した時の分散努力(保険加入等)や、業務上の安全確保などの企業義務

そもそも、損害賠償請求という事態が起きないことが望ましいことは言うまでもありません。会社としての配慮義務を果たすことで、従業員の故意でない事故や破損が起きないようにしていきましょう。

 

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西嶋 一樹(にしじまかずき)のイメージ

執筆者

社会保険労務士法人アールワン 西嶋 一樹(にしじまかずき)
サッカーと水泳が好きな37歳です。担当しているクライアントのほとんどが100人未満の中小規模の会社様ですので、大企業とは異なるスタイルでの人事労務のリスクマネジメントに腐心しています。お客様の要望に迅速に対応できるよう、日々精進していきます。週末は家族と一緒に近所を散歩するなどしてリラックスして過ごしています。