「どこからがカスハラ?」企業が今すぐ取り組むべき線引きと対策
2025/07/01

こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの中村(なかむら)です。先日、大学生の姪から、自動車教習所の学科教習を、自宅でオンライン受講していると聞きました。視聴中はPC前にいる受講者が撮影され、なりすましを防止しているそうです。オンライン授業もここまで来たかと、進化に驚いています。
2025年6月4日、企業にカスハラ対策を義務付ける改正法が衆議院本会議で可決されました。これは、日本企業の働く環境を守る大きな一歩です。カスハラ法改正に先立ち、カスハラの実態と求められる対策をお伝えします。
カスハラの最大の被害は、従業員の心理的ダメージ
カスハラは、厚労省のマニュアルで「就業環境を害する社会通念上不相当な要求や手段」としています。日本カスタマーハラスメント対応協会 副代表の桐生正幸氏は、著書「カスハラの犯罪心理学」の中で「従業員が受ける心理的負担や心身の被害に焦点をあてたもの」としています。
桐生氏の調査から
・カスハラ行為者は、担当者の対応ミスについては謝罪を求め、商品の欠品に対しては金品を要求する
・悪質クレームの特徴として、「感情を露わにするタイプ」だけではなく、「淡々と静かに話すタイプ」も存在する
ということが明らかになっています。
悪質なクレームをする人は、謝罪を受けても要求が収まらないケースが多くあります。懇切丁寧な説明も通じません。対応した従業員は「○○さん、あなた、間違ったことを言ったよね。そのことは認めるよね。どう責任取ってくれるの?」「責任取れないなら全部晒させてもらうよ」などと言われ、苦しめ続けられるのです。ターゲットにされた従業員は、傷つき、悩み、仕事ができなくなり職場を去るしかありません。
以前は、難しいお客様でも上手く対応できるスキルは高く評価されたかもしれませんが、今問われているのは、社員のスキルアップではありません。従業員にとって安心して働ける職場をどう実現していくかということであり、前線の従業員に対応を丸投げしない仕組みをつくることです。
カスハラ対策の鍵は「線引き」と認識の統一
カスハラ対策は他のハラスメントとは違い、業種や業態で対応が異なるため一律ではありません。個人に任せず、チームで対応する仕組みを作るには、全員が同じ視点で、一般的なクレームと悪質クレームを判別する判断基準が必要です。
判別基準は、刑法第223条の強要罪の条文を流用し「このような行為があれば警察に通報」とする方法もあります。
【強要罪の条文を判断基準とした例文】
◆カスタマーハラスメントの判断
自社で定める「著しい迷惑行為」とは、以下のような行為を指します。
①生命、身体、自由、名誉、財産に対して、害を加える旨を告知して脅迫した場合
②暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した場合
③親族に対して、上記①②の脅迫や妨害をした場合
他にも、実践的な取組みで、録音や録画、複数人での対応など、第三者の目を感じさせると加害行為が減少した報告もあります。従業員がカスハラ対応でストレスを抱えないよう、対応マニュアルとロールプレイ研修を実施することで、従業員の心理的負担が軽減できます。
東京都は、中小企業や団体のカスハラ防止の取組みを奨励する目的で、定額で40万円が支給されるカスタマーハラスメント防止対策企業向け奨励金を発表しています。
カスハラ企業対策を講じることで、従業員の心理的負担を軽減し、職場の士気や生産性を向上させることができます。アールワンでは、カスハラ対応に関するご相談、従業員の皆さまへの研修実施なども承っています。

社会保険労務士法人アールワン 中村 智子(なかむらともこ)
電機メーカーに2社勤務後、ハローワークで人材確保・社員定着を支援していました。
キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、メンタルヘルス関連の資格も取得しています。弊社のメンタルヘルス・ハラスメント・コミュニケーション研修を担当しており、社員の皆様が「活き活き働ける職場」を共につくりたく思います。一念発起し、禁酒ダイエット中です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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